ヘッダー画像

帯状疱疹

帯状疱疹|つじファミリークリニック|大野城市東大利にある内科・ペインクリニック

帯状疱疹について(※帯状疱疹後神経痛は除く)

疾患の概要

帯状疱疹

帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: VZV)の再活性化によって発症する疾患です。このウイルスは、ヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスの一種です。
初感染すると水痘(水ぼうそう)を発症しますが、治癒後もウイルスは体内に留まり、脊髄や脳神経節などの神経細胞に潜伏感染します。その後、加齢による免疫力の低下や、ストレス、病気などを契機に再活性化し、帯状疱疹を発症します。
帯状疱疹の好発年齢は50歳以上の中高年で、特に60歳以上での発症率が高いことが特徴です。また、がんやエイズなどの基礎疾患やステロイド・免疫抑制剤の使用により免疫力が低下している人でも発症リスクが高くなります。
発症すると、神経支配領域に一致して片側性に紅斑、水疱などの皮疹が出現し、同部位に激しい疼痛を伴います。重症化すると、眼や耳、脳神経などに合併症を引き起こすこともあり、時には身体機能障害を残すことがあります。

また、発症後1ヶ月以上にわたって、皮疹治癒後も痛みが持続する病態を帯状疱疹後神経痛と呼び、患者のQOL(生活の質)を大きく損ねる後遺症として知られています。

米国では、毎年100万人以上が帯状疱疹を発症し、5人に1人が生涯で1回は発症すると言われています。日本でも人口の高齢化に伴い、今後さらに患者数の増加が予想されています。近年、帯状疱疹に対するワクチンが開発され、発症や重症化を予防する有効な手段の一つとして注目されています。

疾患の原因

帯状疱疹の原因となるのは、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: VZV)です。VZVは、ヘルペスウイルス科のアルファヘルペスウイルス亜科に属するDNAウイルスで、ヒトだけに感染します。

初感染すると、VZVは水痘を引き起こします。水痘は空気感染と接触感染によって伝播し、発症者の水疱内には大量のウイルスが含まれています。感染後、ウイルスは神経終末から感覚神経を介して脊髄後根神経節や脳神経節などに到達し、そこで潜伏感染状態となります。

初感染後、VZV特異的な細胞性免疫によってウイルスは抑え込まれ、無症状の状態が保たれます。しかし、加齢によって細胞性免疫が低下したり、がん、エイズ、臓器移植、免疫抑制剤の使用など、免疫力が低下する状況下では、潜伏感染していたVZVが再活性化し、帯状疱疹が発症します。

再活性化したVZVは、神経節から末梢の感覚神経線維に沿って皮膚へと移動し、表皮細胞で増殖することで皮疹を形成します。この際、神経線維に沿って炎症が起こるため、激しい疼痛を伴います。

一度獲得したVZVに対する免疫は、再活性化を完全に抑えられるわけではありません。米国の疫学研究では、帯状疱疹の再発率は5~6%程度と報告されています。

免疫力の低下がVZV再活性化の主要なリスク因子ですが、家族歴、人種、外傷などの関与も示唆されています。ストレスについては、現時点で再活性化との関連は明らかになっていません。

また、水痘ワクチン定期接種開始後、野生株の流行が抑えられたことにより、成人のVZVに対する免疫力が低下し、帯状疱疹の発症率が高まるのではないかという懸念も示されていましたが、これまでの調査で明らかな関連性は認められていません。

疾患の症状

帯状疱疹の症状は、特徴的な皮疹と、それに伴う疼痛が主体です。発症初期には、皮疹が出現する前から、患部のチクチクとした痛みや灼熱感、違和感などの症状が現れることがあります。この前駆期は数日から1週間ほど続きます。

その後、皮疹が出現します。初めは軽度の紅斑が現れ、数日の経過で丘疹、水疱へと変化していきます。水疱は帯状または群発性に配列するのが特徴で、やがて膿疱となり痂皮化していきます。皮疹の分布は、ウイルスが潜伏感染している脊髄神経節や脳神経節の支配領域に一致します。好発部位は胸部や腰部ですが、顔面や頭部、頸部、四肢など、全身のどの部位にも生じ得ます。通常は片側性ですが、稀に両側性に出現することもあります。

皮疹に伴う疼痛は非常に強く、患者のQOL(生活の質)を大きく損ねます。痛みのタイプは多岐にわたり、灼熱痛、チクチク痛、痺れ、搔痒感などが混在することが多いです。時に痛みのために寝付けなくなったり、衣服の接触も耐えられなくなったりします。

免疫抑制状態の患者では、全身に広範な皮疹が出現し、内臓病変を合併する播種性帯状疱疹を発症することがあり、重篤な経過をたどることがあります。

通常、皮疹は2~4週間で自然治癒しますが、約10~15%の患者で、皮疹治癒後も帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼ばれる慢性の疼痛が残存します。PHNの明確な定義はありませんが、一般的に発症から3ヶ月以上持続する痛みと考えられています。高齢者ほどPHNの発症リスクが高くなります。

また、顔面に皮疹が出現した場合は、眼や耳、口腔内、喉頭など、重要な器官に合併症を生じる可能性があるため、早期の専門医受診が必要となります。

疾患の治療

帯状疱疹の治療は、抗ウイルス薬の投与と対症療法が中心となります。

抗ウイルス薬としては、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなどが使用されます。いずれも経口薬で、帯状疱疹に対する有効性が確認されています。治療は皮疹出現から72時間以内に開始することが理想的で、これにより皮疹の治癒を早め、急性期の疼痛を緩和することができます。ただし、抗ウイルス薬による帯状疱疹後神経痛(PHN)の予防効果については、明確なエビデンスが得られていません。

重症例や免疫抑制状態の患者では、入院の上で抗ウイルス薬の点滴治療を行うこともあります。播種性帯状疱疹には、原則として入院治療が必要です。

皮疹に伴う急性期の疼痛に対しては、NSAIDsやアセトアミノフェンなどの鎮痛薬を使用します。強い痛みには、オピオイド鎮痛薬やプレガバリン、三環系抗うつ薬などを併用することもあります。痛みが非常に強い場合は、神経ブロック療法が有効なこともあります。

急性期の治療と並行して、PHN移行を防ぐための治療も重要です。PHNの機序は完全には解明されていませんが、急性期の炎症によって感覚神経が傷害されることが原因の一つと考えられています。PHN発症リスクの高い高齢者や基礎疾患を有する患者などでは、ステロイド薬の短期間投与が推奨されることがあります。ただし、糖尿病患者などステロイド投与が好ましくない場合もあり、慎重な適応判断が求められます。

重症の帯状疱疹による合併症、特に眼疾患や耳疾患(Ramsay Hunt症候群)、脳神経合併症などを引き起こした場合は、眼科や耳鼻科、脳神経外科などの専門医と連携した集学的治療が必要です。

まれではありますが、抗ウイルス薬が無効な薬剤耐性ウイルスによる難治例も報告されています。このような場合は、ウイルス分離と薬剤感受性試験を行い、感染症専門医と相談の上で代替薬を検討します。

以上が帯状疱疹の治療法の概要ですが、実際の治療方針は年齢や免疫状態、基礎疾患、症状の程度などを総合的に判断して、個々の患者に応じて決定されます。

以後、気をつけていくこと

帯状疱疹を予防するためには、日頃から免疫力を維持し、ウイルスの再活性化を防ぐことが重要です。特に高齢者や基礎疾患を抱える人は、帯状疱疹の発症リスクが高いため注意が必要です。

  • 予防法の一つとして、帯状疱疹ワクチンの接種が挙げられます。現在、日本では組換え体ワクチン「シングリックス」が50歳以上の成人に対して承認されています。シングリックスは、初回接種から2〜6ヶ月後に2回目の接種を行う2回接種ワクチンで、幅広い年齢層での有効性が示されています。ワクチン接種により、発症リスクを大幅に下げることができるため、特にリスクの高い高齢者への接種が推奨されます。ただし、対象年齢や接種可能な人には制限がありますので、かかりつけ医に相談しましょう。
  • ワクチン接種と併せて、日常生活でできる予防法も実践しましょう。免疫力を高めるためには、バランスの取れた食事、適度な運動、質の良い睡眠、ストレス管理などが欠かせません。喫煙は免疫力を下げる要因の一つとされているため、禁煙も重要です。
  • 持病がある人は、主治医の指示に従って適切な治療を継続し、体調を整えておくことが大切です。がんや糖尿病、膠原病など免疫力の低下を招く疾患や、免疫抑制療法を受けている人は、主治医に相談の上で、予防法を検討しましょう。

一度帯状疱疹を発症した人は、再発する可能性があります。再発を防ぐためにも、上記の予防法を心がけることが重要です。

万が一、帯状疱疹を発症したと思われる症状が出た場合は、早めに医療機関を受診しましょう。特に、顔面や眼の周囲に皮疹が出現した場合は、眼疾患など重篤な合併症の可能性があるため、速やかに専門医の診察を受ける必要があります。

また、帯状疱疹の患者は、免疫力の低い人にウイルスを広げる可能性があるため、皮疹が痂皮化するまでは、人混みを避け、免疫力の低い家族との接触は控えめにしましょう。