痛覚変調性疼痛と注意欠陥多動性障害(ADHD)の関係について
先日のペインクリニック学会総会で、上記テーマで教育講演(東京大学の笠原先生)がありました。
痛覚変調性疼痛とは、簡単に言うと、かつて心因性疼痛などと言われていたような原因不明の痛みのことです。
この痛みが実は注意欠陥多動性障害(ADHD)と関係があるのではないかという講演でした。
片頭痛とADHDは関連が多い、線維筋痛症の患者さん25~80%がADHDの診断基準を満たすといった疫学データがあります。
また、難治性顔面痛や口腔痛の83%にADHDが併存しており、この患者さんにADHD治療薬を用いると75%が改善し社会に復帰できるようになったデータもあります。
慢性疼痛の患者さんの行動特徴として、次の①~③があり、これらはそれぞれADHDの症状にも認められます。
①痛みに集中してしまう→過集中、注意散漫。
②過活動→多動で衝動的
③怒り→かんしゃくがおさまらない
ADHDの脊髄ではノルアドレナリンが減弱し、内因性鎮痛が機能しにくくなっています。
ADHD治療薬は「側坐核、前頭前野」に働き、高次の情報処理機能を改善することで、筋緊張や筋弛緩のバランスを改善し痛みを減らすのではないかと言われています(NRS 3.5点程度)。
※ADHD治療薬→①中枢神経刺激薬(メチルフェニデート)、②非中枢神経刺激薬(アトモキセチン、インチュニブ)の2つがあります。
痛みの治療が優先されると、ADHDの診断が遅れてしまうと注意喚起されていました。(精神科医でも88%以上が診断を見逃しているようです)
笠原先生の研究によると、ジョン・F・ケネディはADHDだったのではないかとのこと。そして重度の腰痛に対して、自分でアンフェタミン(中枢神経刺激薬)をよく飲んでいたようです。もしかすると、ADHDと慢性の腰痛の双方に対して、アンフェタミンが期せずして奏功していたかもしれません。
医師が診察する際、慢性疼痛のADHDを疑うシチュエーションとして次の3つが挙げられます。
①衝動的でまとまりがない会話
②多動、落ち着きが無い
③閉眼している(会話の際に気が散らないように目を閉じている)
これらのポイントを見ながら、慢性疼痛の患者さんに対して積極的なADHDのスクリーニングを行ない、精神科・心療内科と密に連携と取っていきたいと思います。