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医療コラム

T先生!クルーズ船で話題のハンタウイルスって、日本でも気をつけないとダメ?|つじファミリークリニック|大野城市東大利にある内科・ペインクリニック

T先生!クルーズ船で話題のハンタウイルスって、日本でも気をつけないとダメ?

 

📢 T先生!クルーズ船で話題のハンタウイルスって、日本でも気をつけないとダメ? 🏥


たろうくん
「T先生!最近ニュースで『ハンタウイルス』って言葉を見かけたんだけど……南極方面のクルーズ船で集団感染が起きたって本当?日本でも気をつけないといけないの?」

T先生
「たろうくん、こんにちは。うん、2026年5月に、南極遠征後のクルーズ船でアンデスウイルスというハンタウイルスの一種による集団感染が報告されたんだ。ただし、まず大事なのは、日本で一般の人が日常生活の中で過度に心配する状況ではないということだよ。順番に整理してみよう。」


🥇 MV Hondius号 集団感染の概要

WHO, 2026年5月13日時点

  • 発生場所:南極遠征クルーズ船 MV Hondius号
  • 原因ウイルス:アンデスウイルス(Andes virus, ANDV)
  • 報告された症例:11例
    • 確定例 8例
    • probable例 2例
    • 判定保留 1例
  • 死亡:3例
  • 致死率:約27%
  • 乗客の平均年齢:65歳
  • WHOのリスク評価
    • 船内・乗船者へのリスク:中程度
    • 世界全体への公衆衛生リスク:低い

また、WHOは、複数の患者から検出されたウイルスの遺伝子配列が非常に近いことから、船内で人から人への感染が起きた可能性があるとしています。

ただし、感染源については調査中です。最初の患者は、乗船前に陸上で感染した可能性があり、バードウォッチング中などにげっ歯類と接触した可能性が指摘されています。一部報道では、ウシュアイア周辺の埋立地を訪れた可能性なども報じられていますが、公式には感染源は確定していません


たろうくん
「えっ、11人中3人が亡くなったの?それはかなり怖いね……。」

T先生
「そうだね。ハンタウイルス肺症候群は、発症すると重症化しやすい感染症なんだ。ただし、感染しやすさや日本でのリスクは別に考える必要があるよ。」


🥈 ハンタウイルスには主に2つの病型がある

ハンタウイルスは、地域やウイルスの種類によって、主に次のような病気を起こします。

1. 腎症候性出血熱(HFRS:Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome)

  • 主にユーラシア大陸で報告
  • 韓国、中国、ロシアなどで知られている
  • 腎臓の障害、発熱、出血傾向などを起こす

2. ハンタウイルス肺症候群(HPS:Hantavirus Pulmonary Syndrome)

  • 主に南北アメリカ大陸で報告
  • 肺の毛細血管に障害が起き、急激な肺水腫や呼吸不全を起こす
  • 今回のアンデスウイルスはこちらに分類される

たろうくん
「感染したら、どんな症状が出るの?」

T先生
「最初は風邪やインフルエンザのように見えることがあるんだ。でも、その後に急に呼吸状態が悪くなることがあるのが特徴だよ。」


🔹 ハンタウイルス肺症候群の主な経過

潜伏期間
感染から発症までの期間は、一般に1〜6週間程度とされています。WHOやCDCは、早ければ約1週間、遅い場合は8週間程度で発症することもあると説明しています。

初期症状

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 筋肉痛
  • 頭痛
  • めまい・悪寒
  • 吐き気・嘔吐
  • 下痢・腹痛

※咳、鼻水、のどの痛みなどは目立たないこともあります。

進行した場合
数時間から数日のうちに、

  • 呼吸困難
  • 低血圧
  • ショック
  • 肺水腫
  • 呼吸不全

へ進むことがあります。

HPSは重症化すると致死率が高く、報告によって差はありますが、おおむね30〜50%程度とされています。CDCはHPSの死亡割合を約38%と説明しており、厚労省も重い病気として注意を呼びかけています。


たろうくん
「特効薬はあるの?」

T先生
「残念ながら、HPSに対して効果が証明された特効薬は今のところないんだ。治療は、呼吸や循環を支える支持療法が中心になるよ。」


📌 治療と予防の現状

  • HPSに対して有効性が確立した特異的な抗ウイルス薬はない
  • リバビリンは一部のハンタウイルス感染症で研究されてきたが、HPSでは有効性が示されていない
  • 治療は酸素投与、人工呼吸器、集中治療などの支持療法が中心
  • 重症例ではECMOが使われることもある
  • WHOは、ハンタウイルス感染症に対する広く承認されたワクチンや治療薬はないと説明している
  • 韓国や中国では腎症候性出血熱向けのワクチンが地域限定で使われているが、今回のアンデスウイルスに対する一般的な予防ワクチンとは別の話

たろうくん
「でも、ハンタウイルスって人から人にはうつらないって聞いたことがあるよ?」

T先生
「基本的にはその理解で合っているよ。多くのハンタウイルスは、感染したげっ歯類の尿、糞、唾液などが乾燥して舞い上がり、それを吸い込むことで感染するんだ。人から人へは通常うつらないとされている。
でも、アンデスウイルスだけは例外的に、人から人への感染が報告されているんだ。」


🔹 アンデスウイルスの特徴

  • 南米、特にアルゼンチンやチリなどで報告されている
  • ハンタウイルス肺症候群を起こす
  • 現在知られているハンタウイルスの中で、人から人への感染が確認されている例外的なウイルス
  • 感染は主に、家庭内や介護、濃厚で長時間の接触などで起きやすいと考えられている
  • 空気感染のように簡単に広がるものではない

過去のアルゼンチンでの集団感染では、人から人への感染が疑われました。一方で、医療従事者などへの感染が大規模に広がったわけではなく、感染にはかなり濃厚な接触が関係していると考えられています。

今回のクルーズ船では、閉鎖空間で一定期間一緒に過ごしていたこと、乗客の年齢層が高かったことなどが、感染や重症化リスクに関係した可能性があります。ただし、今回の船内での正確な感染経路や感染の広がり方は、引き続き調査が必要です。


たろうくん
「じゃあ、日本でも流行する可能性はあるの?」

T先生
「現時点では、日本でアンデスウイルスによるハンタウイルス肺症候群が広がる可能性は極めて低いと評価されているよ。」


🔹 日本でのリスク評価

国立健康危機管理研究機構や厚生労働省の情報では、次のように説明されています。

  • 日本国内で、ハンタウイルス肺症候群の患者報告はない
  • 日本には、アンデスウイルスの自然宿主となる南米のげっ歯類が生息していない
  • アンデスウイルス以外のハンタウイルスでは、人から人への感染は通常報告されていない
  • そのため、日本国内で今回の原因ウイルスに感染する可能性は極めて低い
  • 仮に感染者が入国した場合でも、適切な医療対応と接触者管理により、国内で広がる可能性は低いと考えられている

日本では過去に、実験用ラットに関連した腎症候性出血熱の感染事例がありました。しかし、1980年代半ば以降、国内での発生報告はありません


たろうくん
「じゃあ、日本で普通に生活している分には、あまり心配しすぎなくていいんだね。」

T先生
「その通り。日本での日常生活では、過度に怖がる必要はないよ。ただし、海外の流行地域に行く人は、げっ歯類との接触を避けることが大切だね。」


📌 海外旅行時・流行地域での予防策

流行地域に行く場合は、次の点に注意しましょう。

  • ネズミの巣や糞がある場所に近づかない
  • 古い山小屋、納屋、倉庫などではげっ歯類の痕跡に注意する
  • 乾いた状態で掃き掃除や掃除機をかけない
  • 糞や尿の跡がある場合は、消毒液で湿らせてから拭き取る
  • 掃除の際は手袋を使う
  • 必要に応じてマスクを着用する
  • 食べ物は密閉して保管する
  • げっ歯類が入らないように建物の隙間をふさぐ

南米の流行地域などを訪れた後に、

  • 発熱
  • 強い筋肉痛
  • 倦怠感
  • 胃腸症状
  • 息切れ・呼吸困難

が出た場合は、早めに医療機関へ相談し、渡航歴を伝えてください


たろうくん
「なるほど。日本で普通に暮らしている人は過剰に心配しなくていいけど、海外旅行では気をつける、ということだね。」

T先生
「そうだね。新しい感染症のニュースを見ると不安になるけれど、大切なのは、怖がりすぎることではなく、正しく知ること。今回の件も、日本国内でのリスクは低い一方で、流行地域ではげっ歯類との接触を避けることが重要だよ。」


📝 今回のまとめ

 2026年5月、MV Hondius号でアンデスウイルスによる集団感染が報告された
WHOの2026年5月13日時点の情報では、11例、死亡3例が報告されています。複数の患者から検出されたウイルスの遺伝子配列が近いことから、船内で人から人への感染が起きた可能性が示唆されています。

 アンデスウイルスは、人から人への感染が報告されている例外的なハンタウイルス
多くのハンタウイルスは、げっ歯類の排泄物などから感染し、人から人には通常うつりません。しかし、アンデスウイルスでは、濃厚接触を通じた人から人への感染が報告されています。

 HPSは重症化すると致死率が高く、特効薬はない
初期は発熱や筋肉痛などインフルエンザに似た症状で始まりますが、その後に急激な呼吸不全へ進むことがあります。治療は集中治療を含む支持療法が中心です。

 日本で広がる可能性は極めて低い
日本国内でハンタウイルス肺症候群の患者報告はなく、アンデスウイルスの自然宿主となるげっ歯類も日本には生息していません。日本での日常生活では、過度に心配する必要はありません。

 海外の流行地域では、げっ歯類との接触を避けることが重要
南米などの流行地域に行く場合は、ネズミの糞や巣がある場所を避け、掃除の際には乾いた粉じんを舞い上げないよう注意しましょう。


📚 参考文献

1. WHO. “Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country.” Disease Outbreak News, 2026-05-13. https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2026-DON601
2. CDC. “Andes Virus Outbreak on a Cruise Ship: Current Situation.” 2026. https://www.cdc.gov/hantavirus/situation-summary/index.html
3. 国立健康危機管理研究機構. 「国外航行中のクルーズ船におけるハンタウイルス感染症事例について」2026-05-06. https://id-info.jihs.go.jp/risk-assessment/hantavirus-pulmonary-syndrome/20260506/index.html
4. 厚生労働省. 「ハンタウイルス肺症候群」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hantavirushps.html
5. Stanford Medicine. “Five things to know about hantavirus.” 2026-05. https://med.stanford.edu/news/insights/2026/05/hantavirus-need-to-know-stanford-medicine.html