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医療コラム

T先生!おなかの漢方「大建中湯」って、どうして効くの?|つじファミリークリニック|大野城市東大利にある内科・ペインクリニック

T先生!おなかの漢方「大建中湯」って、どうして効くの?

T先生!おなかの漢方「大建中湯」って、どうして効くの?

(下記の論文を元に一部AIを用いて作成しました)
出典: Katayama R, Kato M, Takayama Y, Sunagawa M. “Japanese traditional medicine Daikenchuto (TJ–100) selectively activates TRPV1 leading to ANO1 interaction in heterologous expression systems” PAIN Research. 2026;41:98–109(オンライン公開 2026年6月24日). doi:10.11154/pain.41.98 / 論文全文(オープンアクセス) / 昭和医科大学 「漢方薬・大建中湯が消化管の微小血流を増加させる仕組みを解明 ― 術後回復促進の科学的根拠に ―」(大学発表 2026年7月15日)/ 大学プレスセンター / Kogo H, et al. Int J Clin Oncol. 2025;30(10):1916–1924.(メタ解析)/ Katsuno H, et al. Jpn J Clin Oncol. 2015;45(7):650–656.(JFMC39-0902)/ツムラ大建中湯エキス顆粒(医療用)電子添文

この記事のまとめ
おなかの手術のあとに使われる漢方「大建中湯」が効く仕組みの手がかりが、分子のレベルで示されました。
見つかったのは痛みや熱を感じる TRPV1 という入り口で、それを動かす候補山椒より生姜の成分でした。
ただし人での効き目そのものは、あってもおだやかな範囲。「漢方は根拠がない」も「これで効果が証明された」も、どちらも言いすぎです。


たろうくん
「T先生!おばあちゃんが手術のあとに漢方をもらったんだって。でもお父さんが『漢方なんて気のせいだろ』って言ってて…。漢方って、なんで効くのか分かってないの?」

T先生
「うーん、それはね、半分あたりで半分はずれだな。効くかどうかは、もうずいぶんたくさん調べられている。ただ、答えはまだ一つにまとまっていない。そして、もっと分かっていなかったのはなぜ効くのかのほうなんだ。大建中湯という薬なんだけどね——今年、その”なぜ”にひとつ答えが出たんだよ。」


まず、どんな薬なのか

T先生
「大建中湯は、山椒・加工した生姜(乾姜)・高麗人参・膠飴(水あめ)からできている漢方だよ。添付文書の効能は『腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの』のひとつだけ“便秘症”という病名の薬ではなく、”おなかが冷えて痛み、張る”という状態に対する薬として承認されているんだ。」

たろうくん
「へえ、病名じゃなくて状態なんだ。」

T先生
「漢方らしいところだね。実際には、おなかの手術のあとにもよく使われているよ。人での研究では、超音波で見ると腸へ行く血管(上腸間膜動脈)と門脈の血流が増える、しかも心臓が送り出す血液の量は変わらない——つまり腸の血流だけが選んで増えているらしい、と報告されていたんだ。」


⚖️ じゃあ、どれくらい効くの?

たろうくん
「ちゃんと効くんだね?」

T先生
ここは正直に言っておきたい。効き目の”大きさ”は、そんなに大きくないんだ。

効果の大きさ
質の高い試験を集めた2025年のまとめ(11試験・1,413人)では、手術後に初めておならが出るまでが平均0.19日(およそ4〜5時間)早かった。研究者自身が効果を「おだやか(modest)」と表現している
386人が登録された、にせ薬と比べる二重盲検の試験では、主要な指標だった「初めての排便までの時間」に差はつかなかった。著者たちは「臨床的な有用性を十分には示せなかった」と書いている

たろうくん
「えっ、じゃあ効かないってこと?」

T先生
「そこも言いすぎだ。『気のせい』で片づくほど研究が少なくもないし、『はっきり効く』と言い切れるほど揃ってもいない——これが正直なところ。そのうえで、体のどこを押したら腸の血流が増えるのかが、ずっと分かっていなかったんだよ。」


細胞ひとつぶで、電流を測る

たろうくん
「今回はそこを調べたんだね。どうやって?」

T先生
「昭和医科大学と東京大学のチームが使ったのは、細胞ひとつに流れる電流をそのまま測る方法(パッチクランプ)。ヒト由来の培養細胞に、調べたい”入り口”だけを人工的に作らせて、そこへ大建中湯をかける。ただし作らせた入り口のほうは、ほとんどがマウスの遺伝子から作ったものなんだ(ヒト型で調べたのはTRPA1だけ)。細かいけれど、大事な但し書きだよ。」

T先生
「それで見つかったのが TRPV1唐辛子の辛味成分カプサイシンや、42℃以上の熱を感じ取る入り口だ。」

実験でわかったこと
・大建中湯は 0.1 mg/mL から電流を起こし、最大反応の半分に達する濃度(EC50)は推定で約0.3 mg/mL(※測った細胞は各条件2〜10個と少なく、概算)
・TRPV1をふさぐ薬(カプサゼピン 10 μM)で電流は大きく抑えられ、TRPV1を作らせていない細胞では測れるほどの電流は出なかった
TRPA1 も TRPV4 も、1.0 mg/mL でも動かなかった

たろうくん
「TRPV1だけをちゃんと選んで押してるんだ!」

T先生
この実験系ではね。著者たちは、生きた腸を使った過去の研究ではTRPA1が関わるという報告があることも挙げていて、炎症などで神経が敏感になった状態では話が違うかもしれない、と書き添えているよ。」


意外な候補は、山椒ではなく生姜

T先生
「大建中湯といえば山椒のピリッとした辛味が看板だろう? ところが、山椒のヒドロキシ-α-サンショオールは 1 mM という濃い条件でも弱い電流しか出さず生姜由来の 6-ショウガオールと 6-ジンゲロールは、その100分の1の 10 μM でしっかり電流を出したんだ。」

たろうくん
「えっ、100分の1の量で!? 生姜のほうが強いんだ!」

T先生
濃度をくらべた話で、効き目が100倍と測ったわけではないからそこは注意ね。それに、生姜の辛味成分ジンゲロールがTRPV1を刺激すること自体は2002年に報告されているこの論文がはじめて示したのは、”大建中湯そのもの”が直接TRPV1を動かすことを電流としてとらえた点だよ。」


CGRPで血管が広がる

たろうくん
「でも、TRPV1が押されると、どうして血が流れるようになるの?」

T先生
「いい質問だな。TRPV1のある神経が刺激されると、CGRP という物質が出るんだ。これが血管を広げる。以前このコラムで片頭痛の薬の話をしたときに出てきた物質と同じだよ。ラットの実験では、CGRPの受け手をふさぐ薬で、大建中湯による腸の血流増加が抑えられたと報告されている。」

たろうくん
「生姜 → TRPV1 → CGRP → 血管が広がる、って順番なんだね!」

T先生
そう考えると筋が通る、という仮説の段階だよ。今回の実験では血流そのものは測っていないからね。」


⚠️ ここから先は、まだ言えない

T先生
「正直に言うね。これは培養した細胞に、入り口だけを人工的に作らせた実験なんだ。人の腸そのもので確かめたわけじゃない。著者たちも、『この研究は大建中湯に直接の鎮痛作用があることを示したものではない』とはっきり書いている。」

たろうくん
「じゃあ、『漢方が効くって証明された!』とは言えないんだ。」

T先生
「そこを守れる人が、いちばん賢いよ。それともうひとつ。漢方にも副作用はある。大建中湯では間質性肺炎肝機能障害・黄疸が、重大な副作用として添付文書に載っている。どちらも『頻度不明』——”めったに起きない”ではなく、”頻度を計算できるデータがない”という意味だよ。咳や息切れ、強いだるさ、皮膚や白目が黄色いときは早めに受診してほしい。」


まとめ!

大建中湯が”直接”動かす入り口は TRPV1 — この実験系ではTRPA1・TRPV4は動きませんでした

候補は山椒ではなく生姜の成分 — 山椒は 1 mM でも弱い反応、生姜の 6-ショウガオール/6-ジンゲロールは 10 μM で強い反応

人での効き目は「あってもおだやか」 — 11試験1,413人のまとめで初回のおならが平均0.19日早い程度。386人の二重盲検試験では主要な指標に差なし

副作用もあります — 間質性肺炎、肝機能障害・黄疸(いずれも頻度不明)

今回はあくまで培養細胞の実験 — 「根拠がない」も「効果が証明された」も言いすぎ。飲む・やめるの判断は主治医と相談を


たろうくん
「お父さんに『生姜の成分がカギかもしれないんだって』って教えてくる! ありがとうT先生!」

T先生
「いいね。ただし“だから生姜をたくさん食べれば同じ”ではないからね。そこだけ気をつけて。」